「漏前のモナーは俺のモナー」?

  • 火災〜それは一方的に起こるもの

 「漏れはVIPPER、拉致対象(ほげ〜)」とか書くと頃されそうだが。いや単にジャイアニズムという言葉から連想して語呂が良かったから書いただけで他意はない。
 で、これを書いている最中にちょうどDryad氏がコメントをくれていた。こちらのblogの方が意見が分かりやすかったので、少し引用させてもらおうと思う。


24-Hour Survival 2005/10/08 [ネット] 2chと帰属意識 (Dryad氏)より

問題は、2chコミュニティ側にそれを主張する資格がどれだけあるのか、という点にある。id:Dryad:20051003#p1の「モナーは『誰のもの』か?」でも述べたが、2ch文化とは、2ch外の著作物を徹底的にパクり、それらをミックスしたものを表現することで成立してきた文化である。即ち、その良し悪しは別として、本来、「帰属」や「リスペクト」といったものと最も縁の薄い立ち位置にあると考えられる。

ひたすらメシを食いながらダイエットする日記 2005/10/10 「のまネコ騒動(5) jo_30さんに対する反応」より

 私は、「2ちゃんねらーに批判する資格はない」と思っています。公式サイトの掲示板では「黒FLASHやマンガAAのような明らかな著作権侵害を容認しておきながら、 のまネコ程度のパクリで著作権がどうのと騒ぎ出すダブルスタンダードっぷり」に腹を立てている、ということを書いています。


 いや、確かにそうなんだ、そう言いたいのはよく分かる。俺様も実のところ虹裏の職人なわけで、そうである時点で著作権的には後ろ暗いところがあるのは言うまでもない。それはどの種の職人かを明示できない時点で察してくれ、って感じである。それをして著作権云々と言っているのだから呆れたものだ。ただ黒に近い灰色の世界から著作権というレンズを通して見るからこそ、分かること・説明できることもあるのだが。
 特に著作権論議に関しては、2ちゃんねらーサイドに著作権を盾に論議を進めようとする人は多いようなのだが、ただこれの法的根拠がどの程度かというのは、俺様が先に言ったとおり薄いと考えている。実際、俺様論議の根拠として「著作権」はあまり宜しくないと考えている。


 ただ俺様が問題にしたいのは、そういうことではない。確かに2chコミュニティ側にその資格があるかどうかという論議はできるのだが、実際のところ俺様らがいくら論議したところで、そんなものは「関係ない」のである。俺様らがいくら資格について論じても、2chに火が点くときは火が点き、燃え上がる時は燃え上がり、そして時に大火災になる。
 これの性質の悪い面は、確かに煽るということは可能なのだが、基本的には制御不可能という点だ。2ちゃんねらーだとか、VIPPERかと呼ばれる漠然とした集団、その実体は不特定多数の個々人だ。ただ漠然としたベクトルを持った多数の個人が、それぞれの判断・イデオロギーで個別に動いているわけだ。その矛先がひとたびある方向を向いてしまえば、しばらくはその矛先をそらすことは難しい。中心となる母体がないからだ。
 しかもそれが、短時間のうちに数千人、数万人に達してしまう。その規模すら制御不可能なのだ。数千・数万の母体無き漠然とした批判集団。こんなものが、ある巨大コミュニティの感情を害することで理屈抜きに形成されてしまう。それはインターネットの即時性、巨大匿名掲示板の巨大さ、匿名性ゆえにはじめて可能になったことだ。


 それと以前も問題にしているが、「面白半分のAVEX叩きの側面」ということもある。これら匿名掲示板によるの集団での叩きには、学校のいじめと同じく常に多かれ少なかれ「面白半分」の側面があると考える。相手から見える場所では弱いものを標的にするが、相手から見えない場所であれば大きいもの、強いもの程燃えるのが叩きというものだ。本来なら自分よりはるかに強いものをなんとか屈服させる、それが叩きのひとつの醍醐味だろう。実際、俺様にもそういう側面が全くないとは言わない。
 AVEX相手にここまで大騒ぎになったのも、ひとつにAVEXが巨大であり、それを叩くためのお墨付き(彼らが主張する、だが)が得られたからここぞとばかりにやっている、という側面もあるのではないかと思う。
 でもって、一方的に批判したい人たちが自分の都合の悪い面を敢えて無視する、殊更に棚上げする傾向があるのは説明するまでもないことで…。例えばこんな有名な話とか。


osakana.factory osakana日記 2005/10/07 「のまネコ問題で考える二次創作の創造性」より

企業側には、何が2chに叩かれるものであるかを認識できるだけの、リテラシーが全くないんだ。
(中略)
AVEX側の対応が遅れた理由は、当初2ch側の主張を全く理解出来なかったからだと思う。それほどに、2ch側の倫理と、商業中心に考えている人たちのそれとは、すれ違っている。

24-Hour Survival 2005/10/10 [ネット] 「2ちゃんねら」とは誰かより

ただ、一方で2chコミュニティに帰属意識を抱く(一部の)2ちゃんねら、あるいは言い換えるなら「2ちゃんねる主義者(2channelist)」*1とでも呼ぶべき人々が相当数存在し、今回の反対運動の中心にいるのは、おそらくはそういった人々なのではないか、ということだ。

 俺様は「のまネコ」vs「のまタコ」VIPPERの場合…?で「日本最大のサイバーテロ集団」という表現を挙げたが、これにはその時挙げた以外にもいくつかの意味がある。みしきさかな氏が言ってることだが、すれ違っているというか根本的に相容れない。テロ組織というものは、ある独特の主義に基づき反社会的行動を起こすものを指す。でもってその主義というのは一般社会の人間には普通あまり理解できない。2chから起こされる批判行動は言論手段で別にテロ行為という訳ではないが*2、企業の側からするとよく分からない主義主張を元に攻撃(批判行動)を仕掛けてくるわけで、そういう面ではテロ組織とあまり変わらない。もっとも、そもそも攻撃とは言え言論手段に頼る限り、それは別に違法行為でも法律上のテロでもない。田代砲や殺人予告に関しても、これまた打った個人個人と扇動した個人の責任を追及するのが本来、あるいはとばっちりを受けた管理人ひろゆき氏が訴えられるかである。集団としての「2ちゃんねらー」に責任を取らせることはできないのである。


 とまぁ、現にそういう集団が現存し、常にそういう爆弾を抱えているのである。企業にしてみればどういった理由で爆発するかが分からない爆弾を、だ。ただしかし、じゃぁそんなものが存在する責任は誰が取るべき?という問題はちょっと考えてみる必要がある。2ch、巨大匿名掲示板というコミュニティは、確かにひろゆき氏という管理人はいるが、日本社会の中で半ば自然に発生し成長したものだと思うのだ。ある意味日本社会でのみ生まれる、日本特有のものだと俺様は思っている。「あなた方*3がオタクとかいう言葉でひとくくりにするのと同じ、日本社会が生んだサブカル集団ですよ、ええ、にちゃんねらーというものは、ええそうです日本が生んだ誇るべき。その数実に300万、ネット上では声の大きい集団であることはご理解頂いてますよね?」と自嘲気味に言うのだ。
 要するにネット上の自然発生集団であって、今更抹殺も無視もできない以上、企業としては地雷を踏まない努力、共存していく努力をちょっとはしてもいいのではないか、リスクとしてカウントするべきではないかと思うのである。


 それと、Dryad氏がしている「2ちゃんねる主義者」という表現とか、「帰属意識」に関する言及だとか、jo_30氏や(ぱ)氏がする「フォークロア」という表現などを読んでいて思ったが、モナーなどのAAキャラは確かに「フォークロア」と言えるものだととも思った。さらには、その「フォークロア」を生む、集団としての「2ちゃんねらー」だが、不思議なことに集団としての民族意識のようなものが垣間見えることがある。コミュニティ内だけで通じる独自の言語を持ち、帰属意識・同朋意識、イデオロギー、文化を持ち、そしてある種の結束性と排他性を持つ。もちろんこれがあるからといって「民族」の定義にあてはまるものではないのだが、彼らの領分を侵したときの感情的な反応は、民族のそれを侵した場合のものとよく似ているように思う。民族の場合、その噴出の形のひとつとして「テロリズム」があるわけだ。それが往々にして、集団の感情的なものや生理的なものに根ざすことは、民族の対立というものを見れば分かると思う。民族の発生にいくら論理や理屈をあてはめようとも、そんなことに関係なく民族は発生し、発展し、そこに存在する。これは誰にも制御できない。2chなどの巨大匿名掲示板というコミュニティは、民族という巨大なコミュニティのミニチュア的な性質があるのかもしれない。
 2chなどがおもしろいのは、各々個人が持っている「コミュニティに属するものの性質」を簡単に着脱できるということだ。自分の都合と気分に応じて、2ちゃんねらーという性質を都合よく発揮したり隠したりできる。自分の気分が向かなければ、その時は2ちゃんねらーでなければ良い。時には他のコミュニティ、あめぞうだったりぁゃιぃだったり、ふたば住民だったり、そのコミュニティでの立場を発揮したりもする。そういったいい加減さも、巨大匿名掲示板の性質なのかもしれない。


  • 「それでもモナー2chのものなんです!」他の事は棚上げして!

 2ちゃんねらーVIPPER諸氏がモナー2chオリジナリティを主張し、AVEXの「のまネコ」がパクリであることを批判することについては、俺様なりに次の意見がある。
24-Hour Survival 2005/10/08 [ネット] 2chと帰属意識より

普通に考えれば、他者の著作物を参照してパクる一方で、他者から参照されパクられる事にのみ抗議を展開するのは、正しくジャイアニズム*4であり、ダブルスタンダードと言うほかない。以前と同じ結論になるが、やはり、2ちゃんねら*5にはコミュニティ外部の世界が見えていない(興味がない)としか思えない。

 いや虹裏などその最たるものでだな…というのはある。実際納得できない人も多かろう。(ぱ)氏にせよDryad氏にせよ、理解してくれとは到底、俺様はいえない。


 ただ実際問題としては、もし仮にAVEX側が「2ちゃんねらーはこれまで多くのものをパクってきたではないか、それをして我々がパクることを批判するのか」という論を挙げることは絶対にヤバい。ヤバいという意味で、企業側が絶対にしてはいけないことだ。確かにその意見は正当ではあるのだが、万一にもこれを言ったら絶対今までどころでない騒ぎになってしまう。mixiで松浦氏が退会の時にした発言に関しても方々で批判されているのも、ひとつにあの発言からそのような意図を拡大解釈して批判しているのではないかと思う。
 一般的に、個人やコミュニティの持つ著作物やコンテンツを、大企業や商業出版媒体が無断で借用することは許されない。それは理解できると思う。おかしいのは、例えその個人やコミュニティが大企業や商業出版媒体からコンテンツを借用しまくっていたとしても、その個人やコミュニティが作ったオリジナルのものを、大企業や商業出版媒体が無断で借用することは、やはり許されないという傾向がある。果ては同人誌など商業出版媒体のコンテンツを借用しまくったものであったとしても、商業出版社はそれを訴えることはできても、無断借用返しはやはり許されないのである。
 極端な例を挙げれば、例えば「テ○○の王○様」という商業媒体の漫画があり、その同人誌で「ペ○○の王○様」というものがあったとする。その同人誌が大変よくできた話で、「テ○○の王○様」の作者がその同人誌のお話を「パクリスペクト」し返したとする。この場合、同意があれば殆ど問題にならないのだが(外野は別としても)、無断でやると多分これは大変問題になるのである。*6
 ついでに、同人誌などはキャラクターなどは無論原作となる商業媒体から借りているのだが、ストーリーを丸まま真似たり、原作をトレスしたものを掲載すればこれまた問題になるといった変な線引きがある。いや、場合によっては俺様にすら理解できない線引きすら時々存在する。
 とにかく、この場合「パクった、パクられた」というのは作品個別に論じられるもので、他である作品の要素をパクりまくっているからといって、別の作品にパクられたという論議は全く別に行われる。「お前らだってパクってんのに!」という論議はだいたい可能なのだが、ただ実際はこれはご法度とされる。するとそれだけで叩かれる。これは同人誌をやっているものには暗黙の了解なのだが、コミュニティ外の人から見れば全く理屈の通らない話であろう。


 そしてこれが、企業←個人やコミュニティ、この間はもっとシビアだ。個人やコミュニティ間のコンテンツのやり取りには、パクったリスペクトされた参考にしたといっても、仲間内のことで基本的には金銭のやりとりは発生しない。同人誌などメディアが伴う場合でも、多くて数千円だ。実を言えば個人間で1000円のやり取りでも2000回行われれば200万円、その割には元コンテンツの権利を持つ筈の企業側には1銭も入ってこないのだが、それでもである。ところが企業が個人やコミュニティのコンテンツを無断借用すると、企業側にはかなり大きな利益が発生することになる。例え法の上では企業側に権利があったとしても、感情的には許されない。いや正確には、許さない人が殆どだ。
 ピラミッドの上から下へは無断で行くのに、下から上へは同意が必要になる。この対等でないパクリスペクトの関係は確かに理屈は通らないのだが、ただ慣習として著述や漫画などの世界には存在する。


 2chに関してはどうかというと、これはもっとひどい。はてなキーワードの「2ちゃんねる」の項を見ると、もともとあめぞうの流れを汲む掲示板なのだが、その発端はパクりだという。あめぞう自体が、「あめぞうリンク」というアングラリンクを発端にしているという。もともとアングラ系掲示板であって、面白いものがあればどのようなコンテンツにせよコピーし共有するのは正義である、みたいなところはあったと思う。また、論文などと同じく多く引用されるのはコミュニティの仲間に認められるということであり、名誉なことでもある。それゆえに面白い発言やAAなどはあっという間にコピペされ、瞬く間に広がっていく。jo_30氏はこころはどこにゆくのか? 2005/09/08 [のまネコ]MUZOからの公式コメントで次のように言っている。

「みんなで共有しましょう」という2ちゃんねらーの『美しきプライド』

 これは、ひとつにそういう側面が発展したものだと思われる。jo_30氏はこれをモナーについて言っているのだが、実のところ著作権からみてグレーなコンテンツであろうが2ch外の発言であろうが、マイヤヒーのような黒フラであろうがその他パクりコンテンツであろうが、とにかく面白ければ何でも共有してしまうのである。ひとつにそれがプライドであることは分かるのだが、全体を見ると随分黒いものも共有していませんかとは確かに思う。
 黒フラをDLすることと、著作権のあるmp3などをnyなどでP2P共有することは同義的にも著作権的にもあまり変わらない行為だ。実際それを理解している人も多いのだが、何故か罪の意識は薄かったりするのである。
 片方でそんなことをしておきながら、いざモナーAVEXにパクられたとあれば殊更に文句を言う。これをせめて正当化する根拠はたったひとつ、「それはそれ、これはこれ。別々の問題です。」というだけである。一応これは著作権法上でも正しい根拠で、法的には確かに別々のオリジナリティが主張できるコンテンツ同士であれば、それぞれの著作権上の問題は全く別である。さらには、(法的に見た)批判の権利はそれぞれ個別に存在するわけで、法がそれを規制する訳ではない。倫理や道義的にどうかという点は別にしても。
 ただ、それ以外で正当化できる根拠があるかというと…いろいろ考えてみたのだが、どれもどこかで無理が生じる。Dryad氏の言う「正しくジャイアニズムであり、ダブルスタンダードと言うほかない。」ということに関しては、実に全くその通りであるとしか言いようがない


 ここでさらに問題なことがある。
 俺様が書いた「のまネコ」事件雑感には、2ちゃんねらーサイドの「一方的な」申し立てに対して『そのコミュニティに対して「お借りする」という姿勢と礼儀を見せることは必要なのではないかと思う。』と、一方的な譲歩を求めている。先にあげたみしきさかな氏の意見もそうだ。
osakana.factory osakana日記 2005/10/07 「のまネコ問題で考える二次創作の創造性」より

一方AVEXは、モナーを「インスパイヤ」しちゃったけど、違法とも言えなそうなのでジャイアニズム発揮しちゃった。今叩かれているのはこのジャイアニズム精神なわけです。

 この例を挙げたのは、みしきさかな氏も俺様と似たような立ち位置にいる同人作家であって、同じように見てる(=一方的であることの考慮が皆無)からである。実際のところジャイアニズムを発揮しているのは2ちゃんねらーサイドであるとも言えるのだが、ただAVEXを批判している側にはそういう意識はない。一方的であり、ジャイアニズムであり、ダブルスタンダードであるという意識は、ほぼ全くといっていいほどないのである。かく言う俺様も理屈ではダブルスタンダードだと理解していても、やっぱり「2ちゃんねらーのものを無断借用しようとしたAVEXさん、あんさんが悪うございまっせ。え?何?2chもさんざんパクってるじゃないか、だいたいマイヤヒーFLASHが?それはそれ、これはこれ、その理屈は通りまへんで。」と一方的に言うのである。理屈ぬきに。


 理屈で考えてみれば、これまたAVEXには可哀想な話である。でも誰も同情しない。
 それがVIPクオリティ


 …ここはひどいインターネットですね。


 いや全くだ。



 最後になったが、意見をお借りしたみしきさかな氏、(ぱ)氏、Dryad氏、jo_30氏には感謝したい。また、jo_30氏のコメントを元に書こうと思っていた「ネットキャラとオープンソースクリエイティブコモンズとの関係」については、稿を改めてまた論じたい。

追記 2005/10/14
トラックバック先がうまくいっていなかったり間違えていたのを修正した。

*1:原文注釈では、『「チャネリスト」とかいう言葉が脳裏をよぎったので誰か使ってください(´・ω・`)』となっている。ちなみに俺様の友人で2ちゃんねらーを指して「チャネラー」と呼ぶ人がいる。

*2:今度の件で、スレ頭に田代砲禁止とかわざわざ書かれるということは、これまで結構田代砲を撃つ→DDoS攻撃を行ってきた、ということではあるのだが。

*3:読者を指しているのではなく、サブカル集団を漠然と批判したがってる人たちを指す。

*4:原文注釈:「お前のものは俺のもの、俺のものは俺のもの。」

*5:原文注釈:「の一部の人」って付けても良いですけど、まぁとりあえずこれで。

*6:「テ○○の王○様」と名前のよく似た現実に存在する漫画でそのような事があったという訳では全くない。これはあくまで例えであると重々申しておく。