どのような著作物かという話

ここしばらく、ちょっと参っていたのと仕事が忙しいのとで全然進んでいなかった。ついでに曲者だらけの著作権に関する論議の中でも、著作物というのが案外ややこしかったりする。
「OS娘がどのような種類の著作物であっても、著作権には関係ないのではないか?」という考えもあると思う。普通は種類が違おうが著作権に関する考え方は同じだろうと思う。ところがこれが、なかなかそうはいかない。
単純に「著作物の種類」を論じるだけでもややこしいのだが、さらに著作物の種類によってどのように著作権が持たれるか、著作者の解釈なども変わってくるので非常にややこしいのである。


なに?俺様がややこしく考えているだけなんじゃないかって? いや確かにそうなんだが、実際考えれば考えるほどややこしいのよこれ。ついでにややこしく考えたことをあーでもないこーでもないととりあえず書いてみて、なんとかまとめるのもこのブログの目的のひとつだだったりするわけだよ。どうしても、調べて勉強しながら書くような形になる。
ついでに法律とか判例とかに絡んでくる話は、書く内容のことごとく事実関係をぐぐって調べないといけないんでえらく大変なのだ。例えば下に書いてある宇宙戦艦ヤマトの話でも、下書きの段階ではだいぶ内容を間違っていた。この場合はwikipediaさんに詳しく書いてあったので事前に修正することができたが、そうでない例もある。また判例や解釈などは、俺様の長文がさらに束になってかかってもまだ負けるというぐらい、込み入った、しかも分かりにくい文章なのだ、これが。(後でリンクは書くが、ひとつ私が読みかけのものだけで84kある。実に「OS娘はどうやって生まれたのか 」の倍以上! 著作権法をコピペしただけでも160k、8万文字、原稿用紙にして200枚以上、俺様の持っている判例六法全書・平成十二年版・金園社で31Pある。しかも複雑にリンクしているという代物だ。)
そんなわけで、なんだかんだで間違ったりしている部分も多々発生しうるが、気づいた時は是非指摘してほしい。間違えていた部分については随時修正していこうと思う。
また、ある程度のブロックごとにきちんと見直し、慎重に書かないと怖くてアップできないので、ペースはかなり落ちると思うがご了承頂きたい。


  • 過去の裁判を少し挙げるだけでも…

例えば、「宇宙戦艦ヤマト」の著作者問題というのがある。
宇宙戦艦ヤマトの原作者(著作者)と言えば一般に漫画家・松本零士*1だと思われている。ストーリーやキャラクターを作ったのも松本零士氏であるように見えるのでそのように思うのは多分自然だろう。実際、wikipediaを調べると、「宇宙戦艦ヤマト」は松本零士氏は原作・総設定・監督となっている。
Wikipedia-日本 宇宙戦艦ヤマト


しかし、映画プロデューサーである西崎義展氏(企画・原案・製作・総指揮)が、手記で「著作者は自分」と公開したことをきっかけに松本零士氏が著作者人格権の確認を求めて裁判となった。結果、東京地裁にて西崎義展氏が勝訴した。
これは、西崎義展氏が
ヤマト裁判、松本零士はなぜ負けた?

「企画書の作成から編集まで具体的な指示を行い、一連の作品を創作的に形作った」

から、松本零士氏は共同著作者だがその寄与は一部であり、全体に対する著作者とすることはできない。著作者人格権は西崎義展氏が行使できる」とされたのである。その後和解に至り、最終的には「松本零士氏と西崎義展氏が共同著作者であり、西崎義展氏が代表して著作者人格権を行使することができる」との合意に達したのである。*2
詳しくは、下記リンクに「和解書」という形で公開されているので、そちらを参考にしてほしい。
「新宇宙戦艦ヤマト・復活篇の詳細について」
裁判については、次のページに詳しい。
牛木内外特許事務所 D. 著作権侵害訴訟 アニメ「宇宙戦艦ヤマト」事件*3


これは、「映画の著作物」について、監督でも表向きの原作者でもない「総指揮」のプロデューサーが「著作者」として存外に強いという判断が為された例である。一見意外に思うのだが、確かに映画の著作物についてはそのような解釈のできる条文がある。(後で軽く触れる)
漫画の世界でもこれと似た例があり、有名なものに「キャンディキャンディ訴訟」がある。これも裁判で原作者である水木杏子氏がこの原著作者とされた。結果、いがらしゆみこ氏はなんと「キャンディキャンディ」の二次著作者と判断されたようで、「原作者」に無断でキャラクターを使用することも、原画を展示することもできなくなってしまった。この裁判については後で詳しく述べるが、これも「原作者」が著作者として存外に強いことを示した例である。


俺様も裁判の結果を知った時には驚いたし、漫画に慣れ親しんでいる人間にもかなり意外な結果だと思う。実際かなり意外な判決だったようで、原作のある漫画についての重要な判例として、よく取り上げられているようだ。(この判例に批判的な意見もあり、それは重要な論議なので後に詳しく取り上げたいと思う。)


裁判の結果だけを見るととても奇妙な判決に見えるのだが、どちらにせよ「絵としてのキャラクター」を作った「漫画家」が、プロデューサーや原作者に比べて著作者として「弱い」という結果となっている。
実を言うとこのふたつの裁判、特に後者にはかなり裏事情があるようで、必ずしも他も同じような結果になるとは限らない(特にOS娘に関しては、同じように当てはめることができないことは後で述べる)。だが、ともかくキャラクターの形成、特に容姿に大きく寄与するであろう「漫画家」の権利が意外なほど低くなってしまった事情には、著作物の種類という性質が大きく関わっていると思う。


また、特にOS娘は「ネットキャラクター」つまり「キャラクター」としての性質が非常に大きい。「OS娘はどうやって生まれたのか」でも語ったのだが、OS娘は結局最初あるデザインのキャラクターが生まれ、それを他の絵師が「真似る」→「継承する」ことで進化していったのである。
では、この「継承」ということが著作権的にどうなるのか。一次著作物なのか二次著作物なのか。「真似る」ということはどのような権利の黙認によって成り立っているのか。絵師Aが描いたOS娘と絵師Bが描いたOS娘、これはどのように「同じ」なのか。
これは著作物の種類によってだいぶ考え方が変わってくる。


その他OS娘との関係は薄いが、ゲームの著作権における裁判については「映画の著作物」かどうかという観点で争われることが多い。これは、特に「映画の著作物」が他の種類の著作物と比べて特別な権利を持っているからによる。このように著作物の種類によって権利も変わってくる場合がある。(他に比べてかなり特別に著作権の保護が強いのは映画の著作物だけなので、OS娘とはあまり関係ないが)


ここでは、著作物の種類にどのような種類があるか、どのようなものは著作物になるかならないか、OS娘などのネットキャラはどの著作物に属するのか、そのような種類の著作物の利用について過去どのような判断(判例)があるのか、どのような考え方があるのかなどを考察していきたいと思う。
上記のようなことがなぜ起こるのか。法の判断における「キャラクター」とは何で、それをOS娘に当てはめた場合どうなるのか。これは判例も含めた非常に長い論議になると思うが、ちまちまと書いていきたい。

*1:以下、裁判などの例で使用する名前は全て公開されたPNを利用している。参考にした文書によっては本名で書かれているものもあるが、本稿では特に必要のない限りは、最も有名なPNで統一したい。

*2:この例の場合、争われたのは「著作者人格権」についてであって、所謂「版権」など「著作財産権」と言われるものについては争われていない。これは東北新社バンダイビジュアルなどが持っているとのことである。

*3:今後、このサイトへのリンクが多く出てくる。これを書いている牛木理一氏は、2005年5月29日現在、日本マンガ学界の監事をしている。また著作権特に漫画やキャラクターなどについてよく論じているようで、資料も多く集められていることから、このサイトを選択している。