先に、一次著作物と二次著作物について

  • 安易に「二次著作物」と言うが…?

著作物の種類にあたるのかどうかはちょっと分からないのだが、「種類」について論じる前に先に「一次著作物」と 「二次著作物」(二次的著作物と言うのが正しいらしい)の差について論じておきたい。なぜかというと、「二次的著作物」となったものには「一次著作物」に非常に強く縛られるからだ。安易に「二次(的)著作物だ」と考えるととんでもないことになる場合がある。実際先に挙げた「キャンディキャンディ事件」の例は、それが二次的著作物とされたために、漫画家側の著作物の利用に非常に大きな制限がかかることになってしまったわけだ。


まず、「二次(的)著作物」とは何か。もちろん虹裏などが表すような「二次元」という意味ではない。


著作権法*1

第一条
十一 二次的著作物 著作物を翻訳し、編曲し、若しくは変形し、又は脚色し、映画化し、その他翻案することにより創作した著作物をいう。


ここで重要なのは、「翻案」という言葉だ。広辞苑(第五版、岩波書店)によると、次のようになっている。

翻案
前人の行った事柄の大筋をまね、細かい点を変えて作り直すこと。特に、小説・戯曲などについていう。

これだけを見ると、原作(小説?)→漫画という関係には翻案という関係にはないように見える。しかし、著作権法では「若しくは変形し、又は脚色し、映画化し、その他翻案し」と定めている。判例などでも原作を元に別メディア(別の表現形式)で別途作成したものについて、翻案だとする例が多く見られる。
一般には「小説の映画化」「小説の漫画化」「漫画のアニメ化」「アニメの漫画化」などは全て翻案にあたるとされている。またコラージュなどは変形に当たるし、パロディなどもまずは翻案として考えられる。極端には、原作(元作品)がある著作物については、全て「翻案」なのかを疑ってみる必要があるということだ。
ではあるイラスト(=美術の著作物)を真似て別のイラストを作成した場合はどうなるか?これもひとつに翻案だという考え方ができるが、これについては後で詳しく論じたい。同人誌、それとネットキャラなど不特定多数による系統著作物*2についてどうなのかということは、後で詳しく論議したいと思う。


また、キャンディキャンディにおいては、アニメ(=映画の著作物)を二次的著作物としながら、一次著作物の著作権侵害のみならず、二次的著作物の著作者である東映動画著作権をも侵害したと認めた例があるという。(これはキャンディキャンディ事件のところで軽く触れる)


とにかく、だいたい一次著作物か二次的著作物かということは、この「翻案」にあたるのかどうかで争われれることがほとんどだ。また今後の論議でも、「翻案」なのか「創作」なのかどうかが度々問題になってくる。

あと、一次著作物Aから二次的著作物Bが作成され、またさらに二次的著作物Cが作成された場合はどうなるか。これはおそらく、Cに対してBは一次著作物となり、Cに対してAも一次著作物となると考えるのが妥当だと思う。


  • 一次著作物と「二次的著作物」の関係

では、一次著作物と二次的著作物の権利の関係はどうかというと、次のように規定されている。
著作権法

(翻訳権、翻案権等)
第二十七条 著作者は、その著作物を翻訳し、編曲し、若しくは変形し、又は脚色し、映画化し、その他翻案する権利を専有する。

(二次的著作物の利用に関する原著作者の権利)
第二十八条 二次的著作物の原著作物の著作者は、当該二次的著作物の利用に関し、この款に規定する権利で当該二次的著作物の著作者が有するものと同一の種類の権利を専有する。

(二次的著作物)
第十一条 二次的著作物に対するこの法律による保護は、その原著作物の著作者の権利に影響を及ぼさない。


文面だけを見ると、「専有する(=専ら有する)」とあるから、著作者以外には翻訳権、翻案権はないように見える。が、これは第六十三条における「許諾」でそれを許諾することができるのだろう。また、これは譲渡可能な権利でもある。
第二十七条はつまり、「二次的著作物」を作成する権利を規定したもので、これを(著作者が)他の人に許諾することにより、著作者以外が二次的著作物を作成することができると解するのだろう。
また第二十八条は、二次的著作物の著作権者が持つ権利と同じものを、一次著作物の著作者も持つことを規定している。つまり一次著作物の著作者がダメだと言うと二次的著作物の著作者はOKだと言えないのである。(逆はどうかというと…これはよく分からん。)
第十一条はつまり、二次的著作物が一次著作物の権利に影響を及ぼそうとしても、それはできないことを示すのであろう。実例はちょっと思い浮かばない。


キャンディキャンディ事件の例などを見ると、二次的著作物とされることで、二次的著作物の著作者(著作権者)は一次著作物の著作権者の意に反して著作物を利用することができなくなる。実質的には支配されているのと同じだとも言える。これは著作者人格権などについても適用されると解するべきだろう。
第十九条(氏名表示権)においては、別途に規定されている。
著作権法

(氏名表示権)
第十九条 著作者は、その著作物の原作品に、又はその著作物の公衆への提供若しくは提示に際し、その実名若しくは変名を著作者名として表示し、又は著作者名を表示しないこととする権利を有する。その著作物を原著作物とする二次的著作物の公衆への提供又は提示に際しての原著作物の著作者名の表示についても、同様とする。


これは、一次著作物同様「一次著作物の著作者」が二次的著作物にどのように氏名を表示するかを任意に決定できるという意味だろう。


このようなことなので、二次的著作物の著作者(著作権者)は一次著作物の著作者(著作権者)に権利を大幅に支配されることになる。これがために、安易に「翻案による著作物」「二次的著作物」であると考えることは危険だということをご理解頂きたい。特に、元作品に対する派生的作品について論じるときにはこの論議は避けては通れない。



  • 一次著作物か二次的著作物かが問題になるとき

基本的に、それが一次著作物か二次的著作物なのかが問題になるのは、それについて合意が行われるか、争われた時だけである。逆に言えば、ある著作物について、ある条件の派生的著作物を「一次著作物」とする合意も可能なのだろうか?つまり、元の著作物の作者と、派生的著作物の作者が明白な合意によって、「双方を一次著作物とする」とすることもできるのだろうか。
これははっきりとそれを謳った例は今のところ見つけられていないが、おそらく可能なのではないかと思う。
前出の「宇宙戦艦ヤマト」の例において、「和解書」の中で「宇宙戦艦ヤマト」の著作者人格権を「西崎義展氏が代表して行使する」こととともに、西崎義展氏が指揮する「宇宙戦艦ヤマト・復活編(仮題)」と、松本零士氏が指揮する「大銀河シリーズ 大ヤマト編(仮題)」について、双方が「著作者人格権を行使せず、かつ新著作物について別件映画(旧作)の著作者人格権の存在ないし影響を争うことなく」と明示している。
必ずしもこれは二次的著作物に言及したものではないが、これと同様に「争わない」ことで「二次的著作物であることの確認を行わない」、つまり双方が一次著作物として成り立つということも可能なのではないだろうか。
ただ、これは類推であって、実際にどうなのかは実例がないとよく分からんというのが正直なところだ。


  • 自由に翻案又は変形が行える例 〜私的利用〜

ちなみに、著作者(著作権者)の意思に関わらず自由に変形、または翻案できる例がある。私的利用である。


著作権法

(翻訳、翻案等による利用)
第四十三条 次の各号に掲げる規定により著作物を利用することができる場合には、当該各号に掲げる方法により、当該著作物を当該各号に掲げる規定に従つて利用することができる。
一 第三十条第一項、第三十三条第一項(同条第四項において準用する場合を含む。)、第三十四条第一項又は第三十五条 翻訳、編曲、変形又は翻案

(私的使用のための複製)
第三十条 著作権の目的となつている著作物(以下この款において単に「著作物」という。)は、個人的に又は家庭内その他これに準ずる限られた範囲内において使用すること(以下「私的使用」という。)を目的とするときは、次に掲げる場合を除き、その使用する者が複製することができる。


私的利用というのは結構著作権で問題になる話だが、ともかく個人が個人として、個人として完結する形で利用する場合は、要はどのように変えても構わないということである。つまり、他人に全く見せることなく、家からも持ち出さない(持ち出せない)のであれば、どんなパロディだろうが変形だろうが翻訳だろうが、真似して絵を描こうがトレスしようが、フィギュアなどを魔改造しようが、アレでナニしようが、構わないということである。(倫理的にどうかということはさておいても)
厳密には家から持って出たとたんに問題になるわけだが。ついでにインターネットで送信するなどは、もちろん「私的利用」にはあたらないのでアウトである。


ちなみに有名な伝説「ミッキーマウスの絵を家のプールに描いたら、ディズニーがプールを潰しに来た」というのも*3、日本の著作権法に従うならば「私的利用」に当たらないか?ということがまず問題になろう。もっとも、屋外のプールであれば衆目に触れるから「私的利用ではない」という判断もできるだろうが。屋内プールであればまず「私的利用」で通ると思う。
そういや「どこかの小学校で」という説もあり、この場合は私的利用とは言えない。


あと、第三十三条〜三十五条については、教科書など教育目的で利用する例の話である。いくらなんでもOS娘が教科書に載る例はないと思うので、これについてはこれ以上言及しない。


  • 二次的著作物について簡単にまとめてみると

ここで、一次著作物と二次的著作物についてごく簡単に箇条でまとめてみる。

  • 二次的著作物とは、著作物を翻訳し、編曲し、若しくは変形し、又は脚色し、映画化し、その他翻案することにより創作した著作物をいう。
  • 翻案により生み出された著作物は、二次的著作物である。
  • 「小説の映画化」「小説の漫画化」「漫画のアニメ化」「アニメの漫画化」などは全て翻案にあたるとされる。
  • 著作権法第二十七条により、著作者が他の人に許諾することで、著作者以外が二次的著作物を作成することができると解釈できる。
  • 二次的著作物とされることで、一次著作物の著作権者の意に反して著作物を利用することができなくなる。実質的には支配されているのと同じ。
  • 安易に「翻案による著作物」「二次的著作物」であると考えると、その著作物は一次著作物に対して大きな制限を受けることになる。
  • 私的利用の範囲であれば、翻案でも変形でも著作者(著作権者)の許可なく行うことができる。


とりあえず今日はここまで。
ようやく次に、「著作物の種類について」である。

*1:以下、著作権法 昭和四十五年五月六日 法律第四十八号 、平成 十六年十二月  一日 同 第百四十七号〔民法の一部を改正する法律附則第七十五条による改正〕 のものに基づく。

*2:多数の著作者が、連綿と連なるようにある著作物を変形していくというニュアンス。これは俺様が今考えた言葉で、法律にも法学にもそのような言葉はない。

*3:これは都市伝説で実際にあった話ではないとも言われているが、真相は俺様も知らん。また、この話を伏字なしで書くこと自体は言論の自由の範囲で名誉毀損には当たらないと俺様は信じている。あと、著作権を侵害しているということと、プールを潰して良いということも当然別問題である。アメリカならOKなのか?