著作者・著作権者とはなんだろうか?

さて、OS娘の著作権は「誰」が持つのだろうか?
確かに現在、暗黙の合意によって各OS娘に「著作権者」が定められているが、厳密に考えるとまずこれが非常に難しい問題だということが分かる。


これまでに、OS娘の生みの親が「としあき」であるという論議をしてきた。この場合のとしあきは、特に虹裏コミュニティ全体の不特定多数による住人集団を指す。著作権は著作物の生みの親に与えられるべき権利…ということは、「としあき」を著作者とするのだろうか。
不特定多数の集団である「としあき」に著作権が与えられたとして、ではそれを誰がどう行使するのだろうか? それ以前に不特定多数の集団としての「としあき」を著作者とすることはできないのではないか?


これはその通り、無理だ。先ほどから書いている通り、「著作権」とは法的な権利であって、その権利を受け取るのは個人、または法人に当然限られる。「不特定多数の集団」に「(法的な)権利」を与えるための法のシステムは存在しない。だから、OS娘に著作権が発生するとすれば、何らかの形で個人または法人(団体)に帰属することになる。
これが、実質的には不特定多数の手によって生まれた「ネットキャラ」の著作権の最初につまづく点だ。著作権法がこのような著作物の形態を想定していない以上、このような場合に誰が著作権を持つかも、「誰も著作権を持たない」とも明確には決めてくれないわけだ。
とすると、既存の判例や慣習から決めていかなければいけないことになる。しかしながら、「不特定多数の人間によって作られたキャラクター」というもの自体が匿名掲示板というタイプの掲示板から生まれたようなもの。*1その中でも、ここまでの規模に発展し、かつ商業出版誌が無断利用して問題になった例は初めてだろう。つまり前例がない。当然、事前に暗黙でも明示的にでも合意されているわけでもない。では、どうすればよいのだろう?


実際には、既存の枠組みと前例の中で考えていくしかない。最低でもそれぞれ「作品」として発表されたOS娘には、それぞれの作品ごとに一人以上の「作者」がいるわけだ。これを軸にして考えていかざるを得ない。
誰がどのように「OS娘の著作権」なるものを持つかはいくつかの考え方ができる。ただし、「OS娘がどのような著作物か」という事を規定した上で詳しく検討する必要がある。
この段階では、
・誰か一人以上の個人、もしくは法人が、ある著作物に対する著作権を持つことができる。
・誰がOS娘の著作権を持つかは、様々な説がある。
ということをはっきりとさせておきたい。

また、著作権法によって「著作者」がどのように定められているかというと、
著作権法 *2

(定義)
第二条 この法律において、次の各号に掲げる用語の意義は、当該各号に定めるところによる。
  二 著作者 著作物を創作する者をいう。

とだけある。えらくあっさりとしたものだ。ただし、これには作者の明確な意思がなくとも「著作物を創造した」時点で著作者となるということにも留意いただきたい。


  • 変名の著作者、無名の著作者と匿名の著作者

では、匿名掲示板で「作者が特定できない」場合の著作者はどうなるのだろう。ふたばや2chといった匿名掲示板の場合、もちろん名前は板固定の匿名(「としあき」とか「名無し」など)が普通だし、作者の特定も容易ではない。今の虹裏の場合は名前欄がないわけで、「」などと称されるが実際には「無名」と考えるのが妥当だろう。(名前欄やメール欄などでコテハンを名乗る場合もあるので、この場合は除く)
「著作者が匿名である」「著作者が無名である」ことは、ややもすれば「著作者が存在しない」→「著作者をないがしろにしても誰にも怒られない」という考えになりかねない。
直接的な問題にはなっていないとしても、ネットランナーの無断掲載、デジャブアートワークスのとしあき批判については根底的にそのような考えがあったのではないかと思う。また電撃帝王のOS娘漫画掲載の件でも、「著作権の問題はクリアした」という主張はあるが、これをどの程度厳密に考えたかには非常に疑問がある。厳密に考えていれば、あのような意見が出てくるとは考えにくい。


実際には、「変名」(ペンネームなどを使う場合)はもちろん、「無名」の場合でも著作権者としてなんら変わらない権利を持つ。(厳密には、著作者が「著作者名を表示しないこととする権利」を持っている。)


著作権法

(氏名表示権)
第十九条 著作者は、その著作物の原作品に、又はその著作物の公衆への提供若しくは提示に際し、その実名若しくは変名を著作者名として表示し、又は著作者名を表示しないこととする権利を有する。その著作物を原著作物とする二次的著作物の公衆への提供又は提示に際しての原著作物の著作者名の表示についても、同様とする。


また、「著作権者不明等の場合*3」の場合でも、「相当な努力を払つてもその著作権者と連絡する」必要があることが規定されている。つまり、「不明な場合でも著作者、著作権者はどこかにいる」とまずは考えるわけだ。


著作権法

著作権者不明等の場合における著作物の利用)
第六十七条 公表された著作物又は相当期間にわたり公衆に提供され、若しくは提示されている事実が明らかである著作物は、著作権者の不明その他の理由により相当な努力を払つてもその著作権者と連絡することができないときは、文化庁長官の裁定を受け、かつ、通常の使用料の額に相当するものとして文化庁長官が定める額の補償金を著作権者のために供託して、その裁定に係る利用方法により利用することができる。


これはおそらく、「匿名」つまり(半ば意図的に、もしくはコミュニティの掟として)敢えて自分を特定できないようにして発表することを明確に考慮したものではないだろう。それでも、「匿名」であっても著作権者としての権利は全てあり*4、使う前にはまず著作者に許可を取る努力をしろ、と捉えてよいと思う。匿名であることを理由に、著作権上の観点から「匿名である時点で著作権は放棄したとみなすべきだ、PN(など、作者が特定できる形)で発表した方が権利があるのだ」とか考えるのははっきり言って筋違いだ。そこには何ら差はない。あくまでそれは感情的な話である。
また、「著作者が無名で発表するということは、著作権を主張しないという意思表示ではないのか」という考え方もあろう。しかし法の規定では無名であってもきちんと著作権は主張できるわけだ。だから、そう考えるのはあくまで勝手な、しかも誤った類推だろう。少なくとも著作権法上は。


  • としあき」や「名無しさん」は変名なのか無名なのか?

ここで板固定のデフォルトネーム、「としあき」や「名無しさん」などは「変名(ハンドルやペンネーム)」なのか「無名」なのかという議論がある。つまり「としあき」というハンドルで発表したのだとも考えられるし、システム上名前を入力しなければそうなるのだから「無名」だろうという考えもあろう。
ただ上記で述べたとおり、無名であろうと変名であろうと著作権上の権利は変わらないわけで、ここであまり論議しても長くなるし意味がないのでやめる。
個人的には無名だと出自が判明しないという理由から、著作者が名乗らないうちはとりあえず板固定のデフォルトネームを便宜上の発表名とする、つまり変名として発表したと考えるほうが良いように思う。ただしこれは、俺様はそのほうが良いのではないかと思う、というだけの話だ。


ちなみに「」については、名前が表示できないシステムなのだし「」と呼ぶのもあくまで便宜上のものなので、無名と解するのが適当だろう。


ここまでの論議のなかでわりと「著作者」と「著作権者」というのをごっちゃにしていたのだが(というか、結構重要な事なのにごっちゃにしているのに後で気がついた)、これらは必ずしも一緒ではない。というかかなり違う。
「著作者」以外の人間が「著作権(の一部)」を持つこともできる。最初著作権は著作者が持っているが(著作権法第十七条によればそうなっている)、権利の一部を譲渡したり売ったり、貸与したり、質権や担保にしたりすることもできる。というか、こういうことができないと商業出版物が成り立たなくなる。
著作権者」とは、著作者であるかどうかにかかわらず、ある著作物に対して何らかの著作権を持つ人または法人を指す。何らかの手段で著作権の一部を譲渡されることで、著作者でなくとも著作権者になることができることを頭に入れておいてほしい。
なお、著作権法が定める「著作権」のうち、著作者人格権というものは譲渡することができない。だから厳密には「著作権のすべて」を譲渡することはできない。ただこのあたり、言葉の用法を含めいろいろややこしいこともある。また、譲渡はともかく何をもって著作者以外が著作権者となるかはちょっと分からなかったので、もう少し調べて「著作権の権利」のところで詳しく論じたいと思う。


  • ここまでを簡単にまとめると

では、著作権者についてのここまでの話を、箇条でごく簡単に挙げてみる。

  • 特定の一人以上の著作権者が、ある特定の著作物(作品)に対して著作権を持つ。最初、著作者がその権利を享有する。
  • 著作者は無名で作品を発表する権利を持つ。無名であることを理由に著作権の存在を否定することはできない。
  • 匿名、著作者が不明の場合でも、基本的には著作権は著作者が持つ。不明であることを理由に著作権の存在を否定することはできない。
  • 無名や匿名であろうと、著作者が特定できる形で発表されるのと何ら変わらない著作権を持つ。
  • 著作者から著作権の譲渡を受けた場合、著作者以外の人(又は法人)が著作権者となることができる。権利の一部一部を、別々の者に譲渡することもできる。
  • 誰がOS娘に対する著作権者なのかという議論については、様々な説がある。OS娘という著作物がどのようなものなのかを考慮する必要がある。

なお、「誰がOS娘の著作権者なのか?」という議論については、何度も言っている通り「著作権者」という観点だけでは説明できない。3要素と、その他いくつかの論議のあとにこれは論じる。
また、著作者に絡む問題として「一次著作者と二次著作者」という問題が生じる。これは思われている以上に厄介な問題なので、後で述べることにする。
あとOS娘には関係ないが、2ch独自の「著作者」と「(管理人)ひろゆき」の関係については本章では敢えて触れない。これはいつか論じることが…多分ないと思う。



とまぁ、著作者についてはここまでだ。
まだまだ鬱陶しい論議は続くのだが、仕方ない。
読む方には「読み飛ばせば良い」と言えるのだが、書く側はそうは言ってられない。いや当然だが。


追記:2005/05/22 17:06:
大幅に書き直すかもと宣言した通り、かなり書き直した。

追記:2005/05/25 00:31:
著作権者と著作者をごっちゃにしていたのを書き直した。

*1:もしかしたら過去にそういう例がなかったとは限らないが、そのようなものを生むことの出来るシステムを俺様は想定することができない。また生まれたとしても、匿名のまま広く知られるためのシステムが想定できない。連歌などはある意味そういうものなのかと思うが、これについては意見があれば教えてほしい。

*2:以下本章では、著作権法 昭和四十五年五月六日 法律第四十八号 、平成 十六年十二月  一日 同 第百四十七号〔民法の一部を改正する法律附則第七十五条による改正〕 のものに基づく。

*3:これは単に、著作権者がいるけどそれが誰だか分からない、といった意味。多数いるが特定できないという意味ではおそらくない。

*4:厳密には、実名での公表とは保護期間などに差がある。ただし変名と無名では差はない。