問題点2 〜掲載に至るまでの手続きと根回しに関する問題

 前回挙げた問題点、「そもそも何をしたかったのか?」は、どちらかいうとネットキャラの商用利用の問題を含めたグローバルな点について述べたもので、個別の問題に触れたものではない。ここからは、本件の個別の問題点について述べたいと思う。
 表題では「手続き」となっているが、これは「掲載許可を取る上でのプロセス」を指す。掲載において関係者の同意を取るというプロセスがあるが、それに不備はなかったかということをここでは問題にしていく。本項においては、

    • 4人の描きあき氏に許可を取る上での問題がなかったか。
    • 許可を取った後のフォローについて問題がなかったか。
    • そもそも、「」を中心としたOS娘コミュニティにお伺いを立てる必要はなかったのか。

 といった問題を中心に論を進めたい。


  • 「きちんとした前例」というが…?

 前回挙げているのだが、石黒直樹*1が「歯車党日記」で「とらぶる・ういんどうず」の掲載を発表した時に「ネットキャラクターの商業利用における、きちんとした前例を作っておきたかった」という発言をしている。しかし関係者の話などを総合するに、片方の当事者である生みの親のコミュニティ、「」に対して「守秘義務」を盾に意図的に許可を取っていないどころか、もう片方の当事者であり事実上の著作者とされる各描きあき氏に対してもかなり杜撰な対応だったように見受けられる。そうでありながら、


石黒直樹氏 歯車党日記 05/04/08 16:51 電撃帝王VOL.5にて『とらぶるういんどうず』コミック化します より一部引用

・生みの親の絵師あきに、こちらが権利などを主張するものではない「OSたんの二次創作としてコミックを掲載」という企画意図を説明して許可を得る
・タイトルロゴやストーリープロットを事前にチェックしてもらい、オリジナルのイメージを損ねない内容とする。
・正式発表の目処がたった時点でふたば☆ちゃんねる管理人氏に企画について説明と報告

とか、

上記のようなことを仕掛ける会社は「相手は個人のアマチュアだからたいした問題にはならない」とタカをくくって、最初から強行突破を計るつもりでいる場合がほとんどです。OSたんに関しても、昨年の夏〜秋あたりにその手の不穏な噂を業界筋で聞いていましたし。

とか、

 ぶっちゃけ、こちらがこうして筋を通して企画を動かしたからと言って、非常識な輩がそれに従うかどうかはわかりません。でも、何もしないで文句を言っているだけよりはマシだし、今後同じような問題が起きそうになった時、個人著作者が異を唱えるための一例になれば多少の抑止力にはなるんじゃないでしょうか。

とか書いているのである。俺様も自分を棚に上げることはないとは言わないが、しかしこれはどうよと言いたくなる。きちんとと言う割にはまたずいぶんな筋だな、その筋には毛でも生えているのか*2と。そのあたりの詳細に、これから突っ込んでくのである。


  • 4人の描きあき氏に許可を取る上での問題がなかったか?

 歯車党日記コメントスレッドなどによれば、95、Me、2K、XPそれぞれの事実上の著作権者とされる4人の描きあき氏に許可をとったとされる。確かにいくつかの情報を総合するに許可そのものは取ってはいるらしいのだが、その過程にはかなり疑問がある。もちろん断片的な情報しかないので、いったいどのようなやりとりがあったかは分からない。しかし断片的な情報を総合するに、少なくとも上記で石黒直樹氏が言った「企画意図を説明して許可を得る」という説明にはかなりの疑問が生じる。
 時系列については「2004/10頃 メディアワークスが?影山氏を通して各OS娘描きあき氏に連絡。 」「2005/02? 石黒直樹氏が、各描きあき氏4人にプロットを提示?」あたりを参照してほしい。これらの資料から読み取れる内容としては、

    • 石黒直樹氏が直接連絡を取ったのはMeあき氏のみ。
    • 2Kあき氏、XPあき氏、汁あき氏(=95描きあき)については、影山氏が「簡単なメール」または電話で許可を取った。
    • 「具体的な企画書と契約面での条件提示」(石黒直樹氏記述)に対して、「10月に石黒氏からメールで印税の話があり」「各作者さんに確認したところ辞退されましたので、これはその時に口頭で石黒氏にお断りして」(影山氏記述)いる。
    • 2月頃、影山氏は石黒直樹氏から送られてきた漫画のプロットを、各描きあき氏に転送している。この際、汁あき氏にはこのメールは届かなかった。(影山氏のミスとされる)

 影山氏の発言などから、確かに「企画意図を説明し、許可を取」ってはいるらしい(影山氏発言「私がOSマンガの企画内容を、メールあるいは電話で各人に説明し利用許可をもらいました。」)ことは言える。ただし「影山氏が」である。後に汁あき氏が石黒直樹氏の名前すら知らない旨の発言をしたらしいということ他から見るに、この時点ではメディアワークスの名前(肩書き)は認識していたとしても、石黒直樹氏の名前は出てきていなかったのではないかと俺様は推測する。これを影山氏のミスだと言う向きもあろうが、影山氏はこれをメディアワークスとしての企画・仲介依頼だと認識していたわけだから、無理があろう。細かい点ではあるが、説明したのはあくまで「メディアワークスの依頼を受けた」影山氏であり、石黒直樹氏が説明したわけではないのである。さらにはこの時点では、必ずしもメディアワークスの企画というわけではなかった(他社の雑誌も視野に入れていた)らしいのだが、このあたりも影山氏には伝わっていないという食い違いも生じている。
 10月頃の「具体的な企画書と契約面での条件提示」についてはこれだけの情報では具体的な状況が見えてこないが、少なくともこれも影山氏が各描きあき氏に「確認」しているらしいことが分かっている。ここでも疑問なのだが、掲載誌が決まっていない段階でどうして「契約面での条件提示」ができたのだろうか。掲載誌の分からない契約条件とは何なのだろうか。これも些細だが不可解だ。確かに漫画業界では代原などの絡みもあり、そういうことが曖昧なまま進められる事があるとは聞くが…。
 もともとの大きな疑問だが、なぜ石黒直樹氏は自ら直接、各描きあき氏に連絡を取らなかったのだろうか。この後もいくつか連絡の不備は起こっているのだが、これらは石黒直樹氏が直接連絡を取り、連絡のレスポンスを確認していれば起こらなかった筈のことだ。この辺は俺様にとって非常に不可解な点だ。俺様が同人作家に仕事をお願いする場合には、トラブルを避ける意味でもかなり細かく意図などを説明しているだけに、これを「きちんと」と表現することにはかなり疑問を感じる。もちろん「きちんと」の基準は人それぞれだが、「そのまま忘れてたら決定みたいな事になっていて」と言われたり、「汁あきにいたっては石黒って誰?状態だしな…」とか言われるのは、果たしてどうなのか。いや確かに、「企画意図を説明し、許可を取」ったと言えなくはない、言えなくはないのだが…。


  • 許可を取った後のフォローについて問題がなかったか?

 もう上で半分以上言っているが、これも果たしてどうなのか。というか、石黒直樹氏が直接フォロー?しているのはMeあき氏だけであって、他の三描きあきにはそもそも直接の接触を行っていない。だから無論、フォローも石黒直樹氏本人が行ったわけではない。
 直接連絡を取っていたとされるMeあき氏にしても「そのまま忘れてたら決定みたいな事になっていて」ということだし、汁あき氏に至っては(真偽の程はともかく)「石黒って誰?状態」とのことだ。汁あき氏については、最初の許可の段階と、おそらく10月頃にあったとされる契約?の話(これも印税がどうのという簡単な話、つまりは「メディアワークスさんが単行本になったら印税出しますという話ですけどどうします?」「別にいいです」的なものではなかったかと俺様勝手に推測しているのだが)以降は、結果として何も受け取っていないのではないかと、資料から推測される。
 本来なら石黒直樹氏は、4人の描きあき氏に連絡を取る上で、それぞれの描きあき氏に「許可を取る」「企画書・契約条件の提示」「プロットを提示する」「完成原稿のコピーを送付する」という4つのフェーズで連絡を取らなければならなかったはずだ。少なくとも石黒直樹氏はそのつもりだった筈だ。しかしこの4フェーズがきちんと行われたのは、石黒直樹氏が直接連絡を取っていたMeあき氏だけだった。あとの3氏には石黒直樹氏のミスにより届かなかったことは本人が言っている。2Kあき氏、XPあき氏はプロットまで、汁あき氏は契約条件までだ。それも、どんな手段で、どのような内容が提示されたのかは資料からは分からない。もちろんこれは、石黒直樹氏の言うところの「守秘義務」にあたるのだろうし、おそらく石黒直樹氏的に見て一方的な勝手検証を行っている俺様などが知りうるよう、それを開示する義務など皆無というわけだ。*3
 どちらにせよ、このような状況で「きちんと」と言えるのだろうか。俺様の目には、資料などからずいぶんと杜撰であったと判断するし、問題スレや歯車党日記コメントスレッドで問題になった理由のひとつも、多くの人がそう判断したからだろう。これが「きちんと」したものなのか、そのあたり石黒直樹氏に問うてみたい所である。


  • 「」を中心としたOS娘コミュニティにお伺いを立てる必要はなかったのか?

 4人の描きあき氏に対するものとは全く別に、虹裏住人を中心としたOS娘コミュニティに対して何ら許可に類するものを取っていないということがある。これは「守秘義務」を盾に半ば意図的に行われ、「」やOS娘コミュニティ側は4/4になってはじめて掲載の予定であることを知ったのである。これは結果として「OS娘コミュニティ」という実質的な生みの親のコミュニティに無断で企画を推し進めたことになる。4人の描きあき氏に対しての手続きの問題とは比較にならないぐらい大きな、暴言問題と並ぶこの事件の最大の争点となった。
 ただ、「電撃帝王でとらぶる・ういんどうずを掲載する」ということ自体は、最初は石黒直樹氏の名前が出ていなかったこと、ネタ具掲示板での影山氏の発表だということもあってか、そこまで大きな問題ではなかったように思う。(俺様が忙しくてノーチェックだったということもあるかもしれないが。)急速に問題が拡大したのは最初に掲載が発表されてから4日後の4/8 石黒直樹氏が自blogの歯車党日記で発表してからである。それには理由があるが、「暴言」に関わる問題として後述したい。


 石黒直樹氏がこの企画を秘密裏に進めてきた理由は当然あろう。確かに、これらの企画は先にやったもん勝ち等の理由から、具体的な内容が伏せられて進められることが多い。企画そのものすら秘密のことも多々ある。企画がなかなかまとまらないということであれば尚のことだろう。事実上の著作権者である4人の描きあき氏と、仲介に立った影山氏だけに話が廻ったのもそういう理由であろう。
 しかしOS娘に関してはそれでは大きな問題がある。確かに4人の描きあき氏は95・Me・2K・XPのメジャーデザインを表現した絵師であり、仮にだが事実上の著作権者だとされている。しかし、実質的なOS娘の作者、OS娘の世界観の作者はこの4人に限らず、4人を含んだ漠然とした集団である「としあき」を実質的な作者とみなすべき、という考えがOS娘コミュニティや虹裏住人「」の間にある。これについてはOS娘はどうやって生まれたのかに詳しく論じたので、そちらを参照してほしい。絵師やレスしたとしあき(「」)の全ての影響を指して、としあき(「」)全体がOS娘の生みの親だとするわけである。
 「(事実上の)著作権者である(とされる)4人の描きあき氏に許可を取っている以上、掲載の権利はきちんとクリアしているではないか。としあき達がそれに反論する権利はないのではないか。」という意見はあろう。しかし、まず4人の描きあき氏が事実上の著作権者であるという考え方は、ネットランナー等に対する防衛という経緯があっての紳士協定のようなもので、これを疑問とする考えもある。また、4人の描きあき氏に許可を取ることが、著作権の上で掲載を認められるという必要十分条件なのかという疑問がある。仮に著作権の観点からクリアとなったとしても、感情面・思想面でクリアになったわけではない。本当の意味での作者、本当の意味での生みの親は、著作権埒外に存在するのである。このあたりの配慮は全く行われていないどころか、結果として逆なですることになったのである。著作権的にはクリアであることと、実質的な生みの親のコミュニティが感情面からそれを認めることは、また別の問題なのだ。
 例えばこういうことだ。親の事を散々馬鹿にしそれを顧みない婿候補に対し、親が「お前などに娘はやれん」ということは倫理的に当然許されることだ。結婚の権利は娘(嫁)と婿にあり、親が直接に制限する権利はない。だが、それに親がNoという権利は当然にあるわけだ。それが結婚の権利の上では、何の力を持たないとしても、だ。
 例では親がNoと言っているが、実のところOS娘コミュニティの総意がどうだったかということは明確にはわからない。ただ、多くの「」がこれを問題視し、問題を提起し、直接・間接的行動でかなりの反論を為したこと、石黒直樹氏の言動を擁護したのは歯車党日記コメントスレッドですら極わずかだったことは事実だ。全体から見てそれがどのような割合を為すのかは分からない。もしかしたら全体のなかの一部勢力だったのかもしれない。しかし、俺様にはそうは思えないのである。


 そしてこのことは、本項の最初で述べた「のまネコ」事件と同様の問題を抱えることになる。結局これだけ大騒ぎになった理由のひとつは、OS娘の実質的な生みの親であり、大きな影響力を持つ「OS娘コミュニティ」及び集団としての「」に対し、感情面においてOS娘を「借りる」ことについて同意を取らなかった点だ。それゆえ、結果として「無断使用」とみなされ、問題点のひとつとされたわけだ。もちろん、「お伺い」を立てるということは、広く「」に企画の内容を公開するということだ。秘密裏に企画を進めることは当然にできなくなる。それでも、実質的な生みの親の(感情面での)同意を得るためには必要なことなのだから、そうすべきではなかったのだろうか。到底同意が得られそうにないような企画だったということなのか?それとも、「そんなもの」がどうでもいいぐらい、秘密主義の方が大切だったのだろうか。石黒直樹氏は殊更に「守秘義務」という言葉を使うが、この手の企画で最初からオープンにするということも別にできないことではないはずだ。読者公募企画などと同様の考え方に立てば、別に守秘義務を盾にする必要はあるまいに、と思うのである。
 この「感情面」という問題は、「暴言」問題でさらに大きくなるのだが、この詳細については次の項に送りたい。


 ここからは俺様の所感になるが、事件から半年近くが経った今、事件の全体を俯瞰した上で歯車党日記(ただし現在は参照できない部分)を読み返してみて思うことがある。石黒直樹氏は「各OS娘の作者さん」や「生みの親の絵師あき」といった表現を何回かしている。後から考えると、これは4人の描きあき氏に限定した表現だったのではないかと思うのである。今歯車党日記の内容が参照できないのでこれを読んでいる諸氏には検証頂けないのだが*4、少なくとも歯車党日記の4日分の記事から、「」やとしあきといった「OS娘コミュニティ全体」や「虹裏住人全体」についてどの程度考慮していたか、実質的な生みの親とすべきだという考慮が読み取りづらいのである。
 確かに、石黒直樹氏 歯車党日記 05/04/12 20:13 『とらぶるういんどうず』コミック化に関する詳細事情について には、

 OS娘に大なり小なり関わっていた「」の意見が聞ける、クローズドな掲示板などを作るという手段を使うことも考えましたが、アクセス権を与える際にどうやってOS娘に関係した「」だと判別するのかという問題が出てきます。さらに上記の守秘義務を守っていただくことを考えると、どうしても個人認証が必要となり、匿名による活動がデフォルトの「」にそれを要求するのは難しいのではないかという結論となり、事前の意見募集は断念することとなりました。
 そして、昨年夏以降の二次裏を見ているとOS娘ネタを排除する一部勢力が活発に動いている様子も見受けられたため、果たして意見募集をしても有効なのかという危惧がありました。上記のように個人を見分けられないため、アンチOS娘の「」がファンを装って場をかき回すという可能性もありましたので。


という記述はある。しかし、それ以外では「」が出てくる様子が見えないのである。何より、石黒直樹氏が「迷惑をかけた」と感じているなら、その「迷惑」を一番被ったのは誰なのだろうか。個人としては影山氏や4人の描きあき氏だろうが、それだけだろうか。集団として一番迷惑を被ったのは「」を中心に形成された「OS娘コミュニティ」であるはずだ。にも関わらず、「」やOS娘コミュニティを直接指して謝罪しているようには、少なくとも俺様の目からは読み取れなかった。事件発生から半年以上、今に至るまで、俺様が収集できた石黒直樹氏の発言を全部読み返しても、だ。
 もちろんこれ自体も問題だが、このことが示唆している問題がさらにもうひとつある。OS娘の真の生みの親は「としあき」という集団であって、一人の手によって作られたものでも育てられたものでもない、こういう認識が石黒直樹氏から根底から抜けていたか、又は敢えて無視したのではないか、ということだ。石黒直樹氏が作者として見ていたのは4人の描きあき、ではそれ以外の関係者は、石黒直樹氏の目にはどう写っていたのであろうか。4人の描きあき以外は、生みの親ではなかったのであろうか。
 このあたり、「虹裏のヘビーユーザ」を自称するのであればOS娘の何たるかが分かってて不思議はないのに、なせこうも杜撰な結果になったのかが不可解だ。これを理解するためのシナリオは俺様の頭のなかにひとつ存在する。が、言うと問題になる種類のものなので、永久に書くことはないだろう。



 相変わらず長いが、ここで一旦切ろう。
 次は石黒直樹氏の「暴言」問題について書こうと思う。

*1:どうも別のPNに変えたらしいのだが、本項では発生当時のPNである「石黒直樹」を使用する。

*2:深い意味はあるが、深淵過ぎるので追求しないこと。つまりは「それをorzしてしまうなんてとんでもない」ということである。

*3:逆の立場に立てば俺様だって隠すだろうから、これに関しては正直人の事は言えないことを申し添えておく。

*4:実を言うと、よく探すとまだアーカイブの形で残っているらしいのだが、これも石黒直樹氏が意図したものかは分からないため、俺様がこれに直接触れることはできない。