「のまネコ」事件雑感

 さて最初にトラックバックを打っておこう。
こころはどこにゆくのか?(jo_30氏)
三方一両損ではつまらない (徳保隆夫氏)

 「こころはどこにゆくのか?」に関しては、コメント打つべきか、でも長くなるから俺様のblogの方に書くか、ということでTBさせてもらっている。10/7のblogに打っているが、9月末からの一連の記事を参考に俺様なりの意見を書かせてもらおうと思う。
 「三方一両損ではつまらない」に関しては、同意しかねる意見として挙げさせてもらった。ただこちらは、元々相容れない意見だという大前提がある。このあたり立場的な話も含め、後述させてもらいたい。


 この手の論議で俺様が思うのは、まず著作権言論の自由は別であること、それと同じ知的財産権でも著作権と商標権は別々に扱うべきだ、ということだ。感情的にはともかく、実際上は著作権と商標権は別である。確か俺様の記憶では、あるマークなどを商標登録していて、それが著作権上の問題があったとしても商標登録の取り消しが困難だった事例とかがあったように記憶している。どちらにせよ、著作権と商標権は保護するべき対象も目的もかなり異なり、いっしょくたに考えると非常にややこしい話になるし(法的には)意味がないので、別々に考えるべきだと思うわけだ。今回Zenが取り下げたのは「商標権」だが、「モナーモララー?)→FLASHモナー→Zen版のまネコ」の流れにおいて著作権がどうのという話も出てきている。ただこれを一緒に考えることはちょっと問題があると思う。
 また、「のまネコ」の著作権がどうであろうと、2chネラー諸氏が感情論を元に反対の声明を上げることは言論の自由の範疇に属することで、法の上ではそれぞれ全く独立した権利だと思う。常々このような論議において「(2chネラーなどの権利なき不特定集団の)批判の正当性」について問題にする人がいるが、俺様は常に、個人として物事に対する批判の権利があると信じている。
 ただこれらは別々のものであって、それぞれがそれぞれに対して影響を与えることは、現実には難しいと考える。例えば著作権はあくまで当事者間の問題であって、俺様ら外野がいくら文句を言おうが、最終的な結果(があるとすれば、だが)は変わらない筈だ。法とはそういうものだ。
 特に著作権については後で述べるが、これまた非常にややこしい上に常識では理解できない結果が出ることの多いジャンルだ。迂闊に考えるとひどいことになる。


 まずは、「こころはどこにゆくのか?」[のまネコ]徳保氏に答える〜『損して得取れ』 から一部引用。

avexはネット上の著作者不明の著作物を占有しようとしました。著作者不明の著作物が公共の所有に属する物であったことをふまえれば、彼らの行為は公共物を私する行為に等しく、それは「公」の秩序に関する倫理、「汝盗むなかれ」という私有/所有に関する倫理を犯しています。

 確かにその通りなのだが、ただこれは感情論とか倫理の問題であって、法的にどうだという問題ではない点に注意する必要がある。まずモナー自体が公共のものなのか、という問題はあるし、Zen版「のまネコ」は社会的に許されない範囲で「モナーを真似たもの」なのかという意見もあるし、そもそも許すか許されないかすら流動的だという意見もある。
 では、「のまネコ」の著作権がどこにあるかということを考えると、それ以前の段階でちょっと複雑な話になる。
 まず著作権というものは、著作権法にその定義がある。それを誰がどのように持つべきかも、文言として書いてある。この中で「一次著作者」という、最初の原典を作った権利者が既定される。詳しい説明はしないが、「一次著作物の著作権者」の権利は普通思われているよりも非常に強く、後継の著作物に対してほぼ絶対的な権力を持つといっても過言ではない。(変な話だが、Aという作品の著作者が後に作った後編A'という作品であっても、A'はAの二次著作物という形になり、Aという著作物の著作権に縛られることになる。)
 そしてこれまた意外に思われるかもしれないが、この一次著作物というものが、契約書や同意書などで定義できたり、敢えて「訴えない」という同意だけで別々のものとして扱えたりする場合もあるらしい。(そうは法が許さんぜよ、という場合もないわけではないらしいが) 意外にこのあたり、当事者間で柔軟に制御できるらしいことが過去の判例からうかがえる。確かに著作権は親告によってはっきりする側面があり、訴えられなければ問題にならない(=曖昧なままになる、黙認状態になる)ことも非常に多い。ついでに言えば、裁判で出た結論が「正」ということで、「当事者がどう争うか」によって論点がおかしな方向へ飛んでいき、歪んだ結論に達してしまうこともある。


 「のまネコ」はどうだろう。
 最初、「わた」氏が作成したマイヤヒーFLASH(これをFLASH-1とする)がネット上で大ブレイク、そこで登場しているキャラは「モナー」と「モララー」だったことは明白だろう。このFLASHにはO-Zoneの曲「DRAGOSTEA DIN TEI」が使われていた。その後AVEXが『2005/3/2に「DISCO-ZONE 恋のマイアヒ」(ASIN:B0007G8CDE)と言うタイトルでアルバム発売』した。(おお MiniMoni しんでしまったら 圧力かかったと思ってください 2005-10-06 [のまネコ][]よくある誤解から引用) これに改変マイヤヒーFLASH(これをFLASH-2とする)を収録していた。そして『8/24に「DISCO-ZONE ~恋のマイアヒ~(DVD付) [Limited Edition]」(ASIN:B000AMD24O)をリリース』(引用先同じ)した。これに収録されているFLASHが別バージョンかどうかは俺様分からんのでおいておく。で、それとは別に(?)AVEX系?有限会社「Zen」がこのキャラクターに「インスパイア」されて「のまネコ(以下、Zen版のまネコ)」というキャラを作成、キャラクターグッズ展開などのために商標登録を出した、ということらしい。(認識が違ったら指摘してほしい)
 ここでまず、「FLASH-2」にインスパイアされて「Zen版のまネコ」を作ったという件については、キャラクターの特徴の一致などから見ても、裁判で争われると仮定した場合「別のもの」と扱うことは…正直微妙だが、かなり難しいと思う。仮に同一のものと判断されるなら、「Zen版のまネコ」の図版(美術の著作物)は、「FLASH-2」の二次著作物であると考えるべきだ。
 「FLASH-2」は「FLASH-1」の改変バージョンであるから、「FLASH-1」の二次著作物と考えるべきだ。
 では、「FLASH-1」のモナーモララーは?というと、これはちょっと難しい。AAにどの程度著作権が認められるかは議論があるが、FLASHにする段階で「わた」氏が筆絵調のイラストに書き起こしている。創作性という観点から、これが「モナー」や「モララー」のイラスト・動画として「美術の著作物」「一次著作物」という扱いになるのではないかと俺様は考える*1。またFLASHは全体として「映画の著作物」として扱うべきものだと思うが、シナリオ(言語の著作物)は「わた」氏が2chなどの空耳から集めてまとめたもので、これも「わた」氏の一次著作物だと考えることができると思う。音楽はもちろん「DRAGOSTEA DIN TEI」であって、これはFLASH発表当時に日本国内での権利者が誰かによる。
 とするとだ。「DRAGOSTEA DIN TEI」を無断使用して作られた「FLASH-1」は、「DRAGOSTEA DIN TEI」の二次著作物となる、ということは「DRAGOSTEA DIN TEI」の(日本国内での)著作権を当時からAVEXが管理していたとなれば、このFLASHの権利は元々AVEXのものということになる。なぁんだ、最初っからモナーモララーAVEXのものなんじゃん。


 …ある意味正しい可能性があるが、結論は大方嘘だ。
 この場合、音楽の著作物である「DRAGOSTEA DIN TEI」と、「わた」氏の美術の著作物である(と考えられる)「モナー」「モララー」、言語の著作物としてのシナリオ、プログラムの著作物としてのActiveScriptなどがあり、全部合わせてのFLASHは映画の著作物として扱うべきものだろう。映画の著作物は複数の種類の著作物の集合体としての性格もある。この場合だと、全体のFLASHは確かに「DRAGOSTEA DIN TEI」の二次著作物として扱えるかもしれないが、『「わた」氏の美術の著作物である「モナー」「モララー」』の二次著作物でもある。つまり、「DRAGOSTEA DIN TEI」の著作権は『「わた」氏の美術の著作物である「モナー」「モララー」』に著作権を主張することはできないのである。これは、「FLASH-1」が「DRAGOSTEA DIN TEI」の著作権を侵害していたとしても、厳然と別々のものだと言える。


 と、ここまで実はどうでもいいややこしい話を書いてきたのだが、つまりは著作権とはこんなにもややこしいものだ、というだけの話だ。俺様の考えるここでの結論としては、「Zen版のまネコは、わた氏の描いたモナーの二次著作物である可能性が高い」ということである。で、『2chのAAにインスパイヤされて描いたモナーは「わた」氏の著作物です』というのが、「法律上」のモナーの立場だと俺様は思うわけである。これは俺様の法律上の解釈であり、別の考え方も可能だ。とにかくこんなとんでもないシナリオも著作権法上ではアリなのだ、と考える。(俺様は法律の専門家ではないので、誤っている可能性も大だが)


 実際には、「DISCO-ZONE 恋のマイアヒ」に収録する段階で「わた」氏から著作権を譲渡する旨の契約が行われているとのことだし*2、またおそらく有限会社Zenが作成した「Zen版のまネコ」に関しては、その著作権について争わないという同意があるのではないかと思う。だとすると、法的な意味での「著作権」の問題はAVEXにはないだろう。そういう意味で「著作権的に問題ない」と言うことは「法的には」間違いではないと思う。
 確かにそもそも論として、AAの「モナー」「モララー」の著作権を侵害しているのではないかという説もとりうるのだが、これを言い出すと、その著作権を最初に侵害したのは「わた」氏となる。実際上の問題としても、AAの「モナー」「モララー」は半ばパブリック化された存在で、それと「わた」氏の描いたイラストと著作権上のリンクが取れるかというと、まず困難だと思う。それ以前に、「モナー」「モララー」の「著作者」が「わた」氏を訴えるという手続きが、まず必要になる。それはありえないだろう。
 例外のひとつとして、既存でモナーのイラスト*3を描いている人がいて、その人が「わた」氏のイラストに対して「自分のイラストの著作権を侵害した」と訴えそれが認められた場合は、そのイラストが一次著作物ということになる(イラスト-0と呼ぶ)。この場合はまず「FLASH-2」までは自動的に「イラスト-0」の二次著作物となる。「Zen版のまネコ」に関してはオリジナルを主張しているため再度戦う必要があるが、これも認められる可能性はそこそこあると思う。ただこれも、「モナー」「モララー」の「著作者」が「わた」氏を訴えるという手続きが必要になる。もし戦ったとしても、裁判になれば数年かかるだろう。その頃にはすっかり風化しているに違いない。
 ついでに言うと、音楽業界は割と著作権にはうるさく、特に一方的に自分の権利にはうるさい傾向があると俺様思っている。JASRACの絡みなどもあり、その権利関係が非常に複雑になっていることもままあると聞く。となると通常この辺の著作権関連の話には専門の弁護士が絡んでると考えるべきで、多分この辺は抜け目なく著作権の主張ができるよう手は打ってあると思う。いずれにせよ、AVEX/Zenが「著作権的に問題ない」と主張するだけの根拠は必ず持っていると考えて間違いないだろうし、戦う場合でも相手は専門家だから、かなり面倒だと思ったほうがいい。


 俺様がしている話は非常に奇妙と捉えられると思うのだが、法律上の「著作権」という「権利」は実はこういうおかしなものだ。「感情的な著作権」とは全く異なる結論になると思ったほうがいい。著作権は暗黙のうちに発生するが、ややこしくなったときは明示しないと主張できないし、主張が確定するのは契約または裁判によらなければならないのである。特にAAやネットキャラなどといった多くの人手を経て成長したような著作物に関しては、その解釈は非常にややこしい。実に根本的な部分から、著作権法が保護の対象とする「著作物」とはかなりかけ離れたものにならざるを得ない。そのような著作物を(全体として)保護するシステムを、著作権法その他の法律は定義し得ないのである。OS娘というネットキャラを追って著作権を勉強して知ったことはこういうことだ。


 なお、この話の中では、先の引用でjo_30氏が挙げていた「倫理的な意味においての」著作権には触れていない。それは著作権法上の「著作権」からは少し外れるからだ。もちろん重要な問題であるので、後で触れる。
 でもって著作権全体について、「じゃぁAVEXってどうよ?」という意見に関しては…コメントを避けてもいいか?


 これはちょっと俺様もよく分からんのだが、確か図版としての「のまネコ」は取り下げ、文字としての「のまネコ」は取り下げてないということだったかと思う。…そうだっけか? まぁ俺様、著作権はまだ少し分かるが商標権はからっきしなのであまり深くは突っ込まないが。
 まず、商標登録の出願自体は、これは仮に著作権上の問題を抱えていたとしても可能だったと記憶している。そして、例えば図版の商標が他の著作権を侵害していたとしても、取り下げの理由にはなっても自動的になくなるようなことはなかったと思うが、その辺は識者に譲りたい。


 AVEXが「のまネコ」の商品展開にあたり登録商標を出願したということは、これは商売の上では確かに理解できる。特にAVEXは音楽などコンテンツで商売しているわけだから、自分の権利保護には最優先で努めるだろう。「大人の事情」の話もあるとすると尚更のことだ。少なくとも「法的には」商標出願はなんの問題もないだろう。少なくともおそらく「わた」氏との著作権上の解決は無論できていたのだろうから、商標登録をすることは「法的」に問題ないと考えていたことは全く不思議ではない。倫理的にどうかという問題は無論あるわけだが、これは後でまとめて論じる。
 ぶっちゃけ「阪神優勝」の商標出願が個人でできてしまったり、コナミの「ブルートレイン」や「デジタルコロコロコミック」の登録商標問題などを見てもそうだが、結構アレでナニな手段で押さえられてしまうことがある。こういうことから、確かに商品展開においてZenが商標登録を出願すること自体は、商売上の手段としては確かに納得がいく。もし商標出願せずに商品展開したとしたらどうなるか。多分、かなり早い段階で2ch勢力か、あるいは裏社会に商標を奪われ、Zenは「のまネコ」の名称を使うことができなくなるだろう。「のまネコは有限会社VIPPER登録商標です」ぐらいのことはVIPPERならやるだろう。それはそれで面白いことだと思うが、普通はそんなことになる前に商標登録を出す。著作権以上に、この辺は仁義なき世界だったりするわけだ。いやこの辺、商標の話は本当に先に出したもの勝ちで、文字通り「仁義なし」の事例がいっぱいあるので世の中は怖い。


 逆に、カウンターとして2chサイドから「のまタコ」の商標出願に関してひろゆき氏の公開質問状があったわけだ。これも浜崎あゆみのAマークと類似しているということを除けば、行為自体は何の問題もない*4。実際にはこれは、一種の言論的手段、示威行為だろう。本来商標というのはそういう使い方をするものではないが、これまた倫理的にはともかく、法律はそれを認めているわけだ。
 俺様はこの「のまタコ」はAVEXに対する最後の一矢になったと考えている。まさかああいうパロディでカウンターを食らうとは、ZenもAVEXも予想だにできなかったはずだ。ZenがAVEXの意向を受けて図版だけでも商標登録出願を取り下げたことは、おそらく精一杯の「大人の解決(判断)」だったのだろうと思う。


 にしてもなんつうかな、商標登録とかするんだったら先にお伺い立てる場所があろうが、ギコ猫の時にどれだけ揉めたか知らん筈はないだろう、と言いたいのだが、これについては次で述べる。


  • 倫理的にとか、感情的にはどうなのか?

 では権利としての著作権や、保護手段としての商標登録が法的に問題なかったとして、それ以外の問題はなかったのだろうか。無論ある。大問題だ。
 上で引用したように、半ばパブリックなものを独占して商売することは倫理に反するという意見もあるし、倫理以前にその商魂(性根)が気に入らんというもの、「モナーを奪われるのではないか」という不安など、いろいろな考えや思いがあろう。
 しかしどうにも、そう単純な問題ではないように思うのだ。それというのも、「のまネコ」について、単に2ch側への無断使用だとか、対応がどうだったのかという話にとどまらないレベルで「不愉快」感があるように思うのだ。端的に言えば、「無断でコミュニティのものを独占して儲けるのは我慢ならん」という感覚だ。俺様も虹裏という匿名掲示板にいるが、ここ発祥のキャラクターでそういう事をされることについては、本来別に俺様のものでもなく、発祥にそれほど深く関与していないにも関わらず、非常に不愉快に感じるのは確かだ。俺様が問題にしている「電撃帝王によるOS娘漫画掲載問題」にしてもそうだ。人物としてああいうのが嫌いだからというのもあるが、それ以上に行為として不愉快だからこそ、全部で100kをゆうに超えるような長文で、こと細かに指摘していくわけだ。
 この話を書くまで漠然と感じていたのだが、どうも次の条件が揃うと一気に不愉快感が増すように思う。

    • 発祥もしくは主要コミュニティに無断で利用する。
    • 利益をコミュニティに還元しない。
    • 商標登録など、(法的な)独占を伺わせる。
    • 大規模な商業利用を伺わせる。
    • コミュニティ外の広い範囲の人も商売の対象にする。

 さらに、「発覚後の対応が悪い」が加わると事態は最悪の方向に進むような気がする。これが、ギコ猫事件・電撃帝王によるOS娘漫画掲載問題、そして今回の「のまネコ」事件に共通する点だと思う。


 実際には、モナーギコ猫VIPPERはおろか2chが作ったわけではない。これらの発祥はぁゃιぃワールドの方だ。さらにはAAとして2ch外でも貼られてるし、果ては海外のファンまでいる。ネット上で半ばパブリック化したものといえるだろう。その構成はといえば、具体的には文字数行の組み合わせのAAに過ぎない。「たかがその程度のもの」と言えなくもない。AVEXなどにしてみれば「2chでよく使われているAA」程度の認識しかなかったのではないかと思っている。
 しかし、「そんなもの」に対して、いざ事件になれば主要コミュニティに属する多数の人間が特別な感情を抱き、企業に対して怒り出し、一斉蜂起するのである。その瞬間に、「モナー」というAAキャラは特別なものに変化する。それはなぜだろうか。単にAVEXに問題がとか、モナーが奪われるとか、「のまネコ」がモナーのパクリだとか、それだけの個別の問題にとどまるとは到底思えないのである。


 「モナー」や「モララー」、「ギコ猫」などといったAAキャラたちは、多分2chというコミュニティの「住人」や「コミュニティの一部」、もしくは「(コミュニティ内の)言葉」なのではないかと、俺様は思うのである。モナーギコ猫等のAAキャラは、2chのキャラクターであるとともに、2ch同士が掲示板上で「会話」する上での、独自の「言葉」でもある。つまり、コミュニティと共にあり、切り離すことのできない存在なのではないかと思うわけだ。自分たちのコミュニティの「住人」や「言葉」が勝手に、しかも他所の人たちに切り売りされてしまう。商標登録までされてしまう。確かにそう考えれば、とても不愉快なことに違いない。
 このような考えに立てば、確かにこれはコミュニティの住人が反発しない方がおかしいだろう。倫理とか以前にまず生理的に不愉快だ。極端な表現をするなら、民族意識に近いものがあると思う。「のまネコモナーとは違う」という言い訳など通じる筈がない。
[のまネコ]「とおりすがり」さんへから、「とおりすがり」氏のコメントに対するjo_30氏のレスより引用

あなたの仰る「ネコのキャラクター」たちは、ある宗教の象徴的図像のようなものであり、たとえていえば「十字架に磔にされた半裸の男」とか「古いフードをかぶり子供を抱いてほほえむ母親」イメージのようなものです。

 宗教のおっかなさという裏の意味も含め、ある意味正しい表現ではないかと思う。さすがにこれは、賛美に過ぎる言い方ではないかとか、半裸の男の宗教の人が怒りませんかとか、「十字架に磔にされた全裸のモナー」とか「古いフードをかぶり子供を抱いてほほえむモナー」とかアリだよなとか変な方向に考えが進んだりするのだが。


 もうひとつ、名誉という問題もある。俺様は見逃していたのだが、最初AVEXは「のまネコ」は「モナー」とは違うオリジナルキャラだという主張をしていたという。いや今の主張もそのはずだ。法的にはそれは問題なさそうだが…という話は上に書いたのだが、感情的にはこれまた反発を招く内容だ。「モナー」にしても「ギコ猫」にしても2chは別に発祥コミュニティでもなく、著作権を抜きにしてもそのオリジナリティを主張できる立場では実はない筈なのだが、ただ実際上、「モナー」や「ギコ猫」などは2chコミュニティの感情的な所有物なのだろう。上記の「住民説」「言葉説」に従えば、その考えは納得できる。住民や言葉を勝手にパクられ、しかも名前を変えられてオリジナルと主張されては…「2ch発祥って言えよ!」と言いたくなるのは分かる。俺様だって言いそうになる。*5
 このあたりも不思議だが、例え本来発祥と主張できる立場になくても、パクった他人が「自分のオリジナルです!」と主張するのは無性に腹が立つのである。それが自分のコミュニティの存在なら尚更だ。これも倫理以前に、生理的に不愉快な話じゃないだろうか。*6


 今更ながら思うが、というか書いてて気づいたが、こういう部分はわりと見逃されている部分だと思う。大手企業など、こういうものが発生しうることすら年頭にないだろう。この「生理的に不愉快」というのは、「感情的」という言葉に置き換えられて軽く見られがちのような気がする。だが実際はそんな生易しいものではない。「生理的に不愉快」という事象は、実は人間が根本的に受け入れられないもののひとつであって、非常に大きな反発を生む原因となるものだ。それが時として非常に恐ろしいものであることは説明するまでもなかろう。その先にあるのは匿名掲示板というコミュニティだ。その匿名性ゆえに、反発の受け口として非常によく作用する。2chなどの匿名掲示板での火の廻りが速く、非常に短期間のうちにある方向性に集中して力が向くのもそのためだろう。特に2chコミュニティに直接関わるようなことをすれば。


 これらの感情に、「(著作権法に基づいての)著作権上の問題はありません」とかいった言い訳が通用するわけがないことは分かるだろう。しかもそのコミュニティの立場に立たなければ、「彼ら(コミュニティのメンバー)」がなぜ怒っているのかは通常理解できない。それはコミュニティの文化に深く根ざした感情だからだ。

こころはどこにゆくのか? 2005/09/08 [のまネコ]MUZOからの公式コメントからの引用

「みんなで共有しましょう」という2ちゃんねらーの『美しきプライド』を踏みにじった上、「勝手に名前を変えて自分の物にする」というそのあきれた姿勢がここで「見過ごすことのできないAvexの悪」なんです。

 美しきってああた…と思わないでもないが、ただ、jo_30氏が言う「プライド」というものは俺様も納得する。というか、上で述べたそのものだと思う。しかもコミュニティ外の人から見れば、「たかがモナーでなぜそこまで熱くなるのか??だいたいなんだそのみんなで共有しましょう→美しきプライドって??」と疑問に思うことだろう。AVEXにしてもそう考えたんじゃなかろうか。実際、問題が発覚した後のAVEX及びZenの対応は結構後手後手ぐだぐだの感がある。そうなった原因のひとつに、2chコミュニティ、VIPPER側の怒りの本質を理解できていなかった、というのがあるのだろう。


 考えてみると、AVEXにしてみりゃネットの地雷原にそうと知らずに踏み込んでしまったようなものかも知れなとも思う。俺様のようにネット暦の長い論厨にしてみれば、2chがある種の地雷原なのは直感的に理解しており、どのへんに地雷が埋まっているかもなんとなく分かる。なぜなら俺様も地雷を埋める側だからだ。しかし今回の件のAVEXは、そんなことは知るよしもないだろう。地雷を踏んで吹っ飛ばされて、しかもそれが地雷だったことすら認識できないのかもしれない。言論という地雷を踏み、プライドという信管に火をつけたことを。それはAVEXの不幸と言えるかもしれないが、それ以前にまず、地雷原に踏み入らない努力を、何をすれば地雷を踏むのか知る努力が必要だろう。2chとはどういう場所で、モナーを使う上でどういうご作法があるのかを知る努力が必要だったのではないかと思う。


 全く思うが、今回の「のまネコ」にしてもマイヤヒーFLASHまでは何の問題もなかったのだ。なぜなら、その段階まではFLASHに出てくる「モナー」は暗黙のうちに2chのものだった。2chマイヤヒーFLASHモナーを貸していた。それは2chの名誉だったのだ。
 その後のZenによる商品展開にしても、せめて「2chからお借りしました」という姿勢をきちんと見せていればこんなことにはならなかったと思う。管理人であるひろゆき氏に相談し許可を取った上で、『モナーという名称は2chで親しまれているもので、我々としてはこれをそのままお借りし商標登録するのは畏れ多いことです。必要上お借りしたキャラクターにつきましては「のまネコ」という名前で商品展開させて頂くことをお許しください。元のキャラクターはぁゃιぃわーるどを発祥とし、2chを中心に愛されてきたAAキャラクター、モナーであることを明示させて頂きます。』とでもすれば、多分問題ははるかに小さかったことだろう。
 確かに実体の分からないコミュニティに対して頭を下げるというのは難しいことだろうとは思う。だが、著作権なき存在といえどもコミュニティに根ざしたキャラクターを使おうとするなら、そのコミュニティに対して「お借りする」という姿勢と礼儀を見せることは必要なのではないかと思う。特に匿名掲示板で作品を残すということは、苦労に対して得られる代償は金ではなく、名誉と賞賛だ。それを踏みにじって得られるものは、最大300万人の敵と、徹底した批判とブーイングだということを、AVEXは心に刻む必要があると思う。



2005/10/03のblog 三方一両損ではつまらない より引用

現状では「のまネコ」の商標登録に法的な問題はなく、誰も損をしない。商慣習と庶民感覚のズレが今回図らずも浮き彫りになりましたが、私は高々300万人のコミュニティの感情論よりも社会全体の利益増大を目指すべきだと思う。

 今回の「のまネコ」の件においては、果たして「300万人のコミュニティの感情論」を無視することが利益につながるのだろうか。ひとつにこれらのグッズは、主要コミュニティが主要な購買層となるが、その主要コミュニティの反発を買うということは、直接利益減少につながるのではないかと思うのだ。確かに徳保隆夫氏が挙げている、発祥コミュニティの毒男板の反対を押し切り、ニッチの穴を突いて大ブレイクしてしまった「電車男」という例もあるから、必ずしも失敗するとも限らない。ただ、俺様の記憶では確か「電車男」は2chの神であるひろゆき氏の公認があるはずだし、毒男VIPPERではその実行力も影響力も桁違いという差異は考慮する必要があると思うのだが。


 それと、「高々300万人のコミュニティ」というが、その1%の3万人でもある一方向に動き出せば、つられてかなり大きな人数が動き出すことは分かると思う。AVEXが行っているような音楽や映像というコンテンツ商売であれば、3万人を味方につけるか敵に廻すかで状況は大きく異なってくるだろう。
 大量の2chコミュニティ住人を敵に廻すということは、抗議メールや抗議FAX、手紙などの具体的手段で対象企業に直接抗議が行くということである。3万人のさらに1%である300人でも、これだけの抗議メールやFAXが集まるというのは尋常ではないことだ。実際そういう合法的な批判行動が、不特定多数から、短時間のうちに集中的に行われるのだ。しかも誰が制御するでも、誰が中心となるわけでもない。そのベクトルを示すものはいるが、実際に動くのは大量の匿名の個人なのだ。ただ漠然としたベクトルをもつ不特定多数の集団が存在し、それぞれの個人がひっきりなしに抗議メールを送ってくる。過去の罪状や穴だらけの対応は全部洗い出され、掲示板やblogに即座に晒され、共有されるのである。
 発端が分からない、つかみ所がない、抗議集団の実体が分からない、規模が分からない、その割には隙がない。そんな集団が短時間のうちに広範囲に形成されるのである。2chなど匿名掲示板コミュニティの住民を怒らせた時の「攻撃」の、本質的な恐怖はそういうところにある。ある集団の気分を害するようなことを発端として、それは起こってしまうのである。

私は法運用の実態と経済的利益を重視します。多様な価値観を認める社会において、価値対立を裁き秩序を実現するためには、立法機関で多数派を構成して法を定め、多数派の常識に沿って運用する他ない。

法外の判断には原則として反対。法がおかしいなら、法を改正するべきです。

 出来る限りのことは法で判断されるべき、ということだろうか。その考えと立場は重視するし、そういう立場に立つ人が必要だということも俺様は理解する。それが俺様の意見と相容れないものであっても、だ。
 ただ、俺様はネットキャラという観点から著作権を見ているが、法がそのシステムとしてサポートし得ないものは存在する。その性質上、多くの人の手を経て形成されるネットキャラクターの著作権などもそうだ。上にも書いているが、そのような著作物を保護するシステムを、著作権法その他の法律は定義し得ないのだ。著作権法2chねらーやぁゃιぃわーるどの住人にモナーモララー著作権を与えてくれるわけではない。Meたんや2Kたんの著作権を「」に与えてくれるわけでもない。不特定多数の集団が何らかの法的権利を持つことを、法のシステムが規定し得ないのだから。
 AAキャラをはじめとしたネットキャラというものが半ばパブリックなまま、明確な制限が存在しないまま共有されるのは、そのコミュニティに広く知れ渡ってほしい・使ってほしいから、そして、そのキャラクターの自由な発展を望むからだ。たとえそれを保護するシステムがなかったとしても、実益がなかったとしても、彼らが、彼女らが、俺様らがそれを行うのは、そこに名誉と賞賛と、エンジョイ&エキサイティングがあるからだ。なんの努力をしたわけでもない、どこの馬の骨だか分からない余所者を儲けさせるために共有させているのではない。知らない場所に持ち出されて少しだけ改変され、「これは我々のオリジナルです」と言うことは許されることなのだろうか。
 それを許さないと法律に書くことができるのだろうか。それとも、法に規定がないからという理由で諦めなければならないのだろうか。そのどちらをも許さないから、俺様らはNoと言うのである。著作権法でも刑法でもなく、憲法第二十一条に規定された、言論の自由によって。


 と…う、長っ。最後のほうはちと眠くなってるので、文章の意味が通らなくなってるかもしれん。
 最後になるが、意見をお借りしたjo_30氏、徳保隆夫氏に感謝する。また、これだけ長い文章で申し訳ない。



追記 2005/10/09 20:24
モナーモララーVIPPERはおろか…の部分、モララー2ch産と後で知ったので訂正。

*1:これがモナーモララーの立場でかなり重要だが、けろけろけろっぴ裁判?ともいうべきもの(http://www.u-pat.com/d-16.html)がある。これから見るに、「わた」氏のキャラを「AAとは別のもの」と看做すことは可能だと思う。

*2:結果論から言うと、これを元に「わた」氏が「モナーを売った」と言う事は確かに可能だ

*3:FLASHなどでも良い。とにかく絵として、これが元だと十分に主張できる程度に似ている必要がある。とはいえモナーだし、絶対ある気はするが。

*4:商標の考え方からすると、あのマークはさすがに「浜崎あゆみのAマークと混同する」と判断されるように思う。されないのかな?その辺も狙ってのことかもしれないが。浜崎あゆみのAマークに関しては商標登録されているから…って、されてるよな?!

*5:何度も言うが、どちらも発祥はぁゃιぃ(ry

*6:ではモナー2ch発祥と言われたぁゃιぃはどうなのだろうか、結構悔しい思いをしているのではないかとふと思ったり。